企業が最も欲しがる創造力は、なぜ「最も排除したい人材」から生まれるのか
AI動向 業界ニュース 読了時間 11分

企業が最も欲しがる創造力は、なぜ「最も排除したい人材」から生まれるのか

企業は同じ能力モデルと評価基準で人材を選びながら、非標準的な成果を期待する。アレックス・カープは、突破口を生む人材ほど管理しにくく、組織が権威への挑戦を受け入れにくいと指摘する。技術と商業価値の断層、FDEの役割、AI時代に実行が安くなるほど判断が高くなる理由、暗黙知を蓄積する知識システムまでを一貫した論理で論じる。

企業が最も欲しがる創造力は、しばしば「最も排除したい人材」から生まれる

企業が本気で画期的なイノベーションを求めるなら、最初にぶつかる矛盾は市場ではなく、自社の管理制度の中にあります。同じ能力モデルで採用し、同じ評価基準で査定し、同じ昇進の仕組みで選別する。この仕組みは「合格」の人材を見つけるのは得意ですが、「代えのきかない」人材を見つけられるとは限りません。

アレックス・カープ(Alex Karp)はインタビューで、この矛盾をずばりと言い当てています。企業が最も手に入れたい創造力は、実は企業が最も排除したい人材から生まれるのではないか、と。管理学のきれいごとに聞こえますが、彼の説明は穏やかではありません。問題は経営者が開明的かどうかではなく、人材を選ぶ仕組みと、その仕組みに期待する結果との間に、構造的な衝突があるということです。

一、「弱点がない」選考から「非標準」の成果は生まれない

従来の企業は、コミュニケーション、協働、実行、管理のどれもそつなくこなし、目立った弱点がない「六角形の戦士」のような人材を好みます。この好みには理由があります。予測しやすく、協働しやすく、既存の業務フローや階層に収めやすいからです。

しかしカープは、本当に突破口となる価値を生む人材の能力分布は、極端に偏っていると考えます。コミュニケーションが苦手で、管理されることを好まず、標準的なプロセスになかなか馴染めない。その一方で、ある特定の領域では、他人には理解できない創造力を持っている。点数でいえば、ほとんどの能力は60点なのに、ひとつだけ99点に達しているような人です。

問題は、採用票も評価表も昇進基準も、たいてい「60点未満がない人」を評価するのであって、「99点がひとつある人」を評価するわけではないことです。そこに奇妙なねじれが生まれます。企業は標準化された方法で人材を選びながら、その人材に非標準的な成果を期待する。同じ物差しで採用し、査定し、昇進させる。その結果、残るのは管理しやすい人材であり、排除されるのは基準に合わないけれど突破口を開く可能性が最も高い人かもしれません。管理効率は上がっても、組織のイノベーションの上限は静かに低くなっていきます。

これは、専門家が万能型より優れているという話でも、扱いにくい人を全員残すべきだという話でもありません。カープの判断はもっと狭く、鋭いものです。一社がたった一つの基準で全員を測るとき、その会社はすでに、自分がどこまでイノベーションを起こせるかをあらかじめ決めてしまっている、と。

二、創造力の本当の敵は、権威である

なぜ組織は、本当に創造力のある人を受け入れにくいのでしょうか。カープの説明はこうです。本当の創造は、しばしば挑戦を意味する、と。

若い社員の判断が正しく、しかもそれが上司の過去の決定と食い違っていたら、問題はもはや「能力の問題」ではなく「権威の問題」になります。この人のほうが優れていると認めることは、経営者が過去に間違っていたと認めることになる。多くの組織にとって、その承認がもたらすのは学習の機会ではなく、屈辱です。

だからイノベーションが失敗するよくある原因は、経営者がイノベーションを嫌いなことではなく、イノベーションが自分に理解できない相手から、場合によっては学ぶべき相手から出てくることを受け入れられないことにあります。カープはさらに踏み込みます。天才がいない企業は、ただ天才に恵まれていないだけかもしれない。しかし天才がいても定着できない企業は、天才を受け入れる器を欠いている。後者のほうがよくあるし、治すのも難しい、と。

ただしカープは、特殊な人材を美化しているわけではありません。彼は、そうした人たちが「常に正しい」わけではないと認めています。本当に難しいのは、二つのことを同時に成り立たせることです。ひとつは、その人のアイデアに価値があるかどうかを見極めること。もうひとつは、その人をマネジメントする過程で、彼独特の創造力を壊さないこと。ここには、より高度なマネジメント能力が求められます。全員を自分に従わせることではなく、ある面で自分より優れた人に、それでも居続けて価値を発揮してもらうことです。

見落とされがちな境界線がここにあります。組織の認知の上限は、リーダーの認知の上限と等しくあるべきではない。権威への挑戦の芽をすべてその場で摘んでしまえば、企業が失うのは一人のアイデアではなく、組織全体が誤りを正し、新しい方向を見つける力です。

三、技術は製品をつくれても、企業を変えられるとは限らない

人材の話を終えると、カープは問題をもう一方の側へ押し出します。企業が最も優秀な天才を集めたとして、それで商業的価値を生み出せるのか、と。

答えはイエスとは限りません。技術的に先行していることは、技術が商業的価値を生むことと同じではありません。チームが世界最先端のAI製品をつくったからといって、顧客が必ず使いたがるでしょうか。企業が最先端のシステムを導入したからといって、従来の働き方が自動的に変わるでしょうか。もちろん、変わりません。その間に大きな「イノベーションの断層」があります。

カープは具体的なたとえ話をしています。ある人が彼にこう尋ねました。どうすれば壺から最初のオリーブを取り出せるのか、つまり、どうすれば最初の顧客に製品を試してもらえるのか、と。しかしカープは、本当に難しいのは顧客に最初の一口を試してもらうことではなく、顧客の味覚を変えることだと言います。このオリーブがなぜ食べる価値があるのかを、心から理解してもらうことだと。

このたとえの背景には、重要なビジネスの論理があります。顧客に試してもらうことは、顧客に認めてもらうことと同じではない。顧客に認めてもらうことは、顧客が実際に採用することと同じでもない。技術デモは顧客を驚かせても、企業を変えるとは限りません。「採用」とは、業務プロセスを設計し直し、役職を調整し、責任の所在を引き直し、場合によっては既存の権力構造に挑むことを意味するからです。ある技術の最大のボトルネックは、その技術に何ができるかではなく、組織がそれを理解し、採用できるかどうかかもしれません。

言い換えれば、技術革新と価値の実現は、まったく別の話なのです。

四、FDE――技術を業務フローに入れ、現場から製品を決める

カープがFDE(Forward Deployed Engineer、前線配置エンジニア)を特に重視するのも、これが理由です。FDEはソフトウェアを納品するだけではなく、実際の業務現場に入り込み、問題を理解し、システムを調整して、技術を本当に企業の仕事の流れの中に入れていきます。

さらに興味深いのは、カープが、この技術移転の仕組みが逆に「会社が何を開発すべきか」を決めるという点です。ここで論理は根本から変わります。先に技術をつくり、それから市場で顧客を探すのではない。実際の問題を解く過程で、技術がどんな価値を生むべきかを不断に見つけていくのです。

これは単なる製品開発の方法論の調整に見えますが、実際には「誰に製品を定義する資格があるのか」を変えます。製品の定義がオフィスの中だけで行われるなら、エンジニアが最適化するのは機能です。製品の定義が顧客の現場で行われるなら、エンジニアが最適化するのは結果です。製品をつくるのは技術の問題ですが、企業の行動を変えるのはビジネスの問題です。製品の本当の価値は、どれだけ機能を持っているかではなく、どんな結果を変えたかにあります。

五、AI時代の新しい効率性の罠――実行は安く、判断は高く

AIは、この矛盾をさらに拡大しています。

今日、モデルはどんどん強くなり、トークンはどんどん安くなり、企業がAIを使うハードルは下がっています。しかし多くの企業が気づいています。AIの利用量は増えているのに、実際の商業的リターンはそれに伴って増えていない、と。カープは、一部のCEOが非常に怒っていると話しています。大量のトークンに料金を払っているのに、そのトークンが意味のある業務結果を生んでいないからです。

そこに新しい効率性の罠が生まれます。従業員は毎日何十本ものレポートを生成し、AIは毎日何百ものタスクを自動実行する。生産性は爆発したように見えます。しかし、そのレポートが誰にも使われず、タスクが業務結果を改善していないなら、このAIは一体何を生み出したのでしょうか。

簡単な思考実験をしてみます。かつて価値のないプロセスを実行するのに10人が必要だったとします。今は1人か2人で回せるかもしれません。効率は確かに上がりました。しかし「価値がない」という性質そのものは消えていません。より速く、より安く生産されただけです。AIは効率を増幅できますが、同じように無駄も増幅できます。

だからこそカープは、AIを評価するとき、タスクをいくつ実行したか、工数をどれだけ削減したかだけを見るのではなく、現実の業務結果を変えたかどうかを見るべきだと繰り返し強調します。実行コストがゼロに近づくとき、希少なのは「より速くやること」ではなく、「何に価値があるかを見極めること」になります。

六、モデルは誰でも買えるが、暗黙知は買えない

AI時代には、さらに見えにくいコストがあります。専有知識の漏洩です。

企業が長年積み上げてきたサプライヤー選定の経験、生産計画のノウハウ、調達の判断。それらは財務諸表に完全に載ることはありませんが、競争優位を実際に左右しています。経験豊富な調達マネージャーは、なぜサプライヤーの潜在的な強みを一目で見抜けるのか。成熟した営業責任者は、なぜどの顧客が本当に購買意欲を持つかを判断できるのか。こうした能力は教科書から来るのではなく、長期的な実践、試行錯誤、業務理解から来るもので、完全に文書化できるとも限りません。

これまで、こうした経験は少数の人から受け継がれるのが主でした。AIは新しい可能性をもたらします。個人の暗黙知を、組織が継続的に再利用できる判断システムに変えることです。しかし、それは「資料をナレッジベースに入れる」ほど単純な話ではありません。本当に必要なのは、AIに企業の業務関係、意思決定ルール、ワークフローを理解させ、経験を呼び出し、検証し、修正できるようにすることです。

企業がこうした専有知識の利用範囲と流れをうまく制御できなければ、節約できたコストは、知識漏洩の代償を埋め合わせられないかもしれません。モデルは公開市場で誰でも買えるものです。長期的に蓄積された暗黙知、判断ルール、フィードバックの記録こそが、複製できない部分なのです。

七、人材、組織、知識システム――イノベーションのバリューチェーン

カープのこうした主張を並べてみると、その背後に同じ論理が見えてきます。

特殊な人材が、他人には見えない問題を見つけ、他人には思いつかない可能性を生み出す。組織の能力が、その可能性を実際の業務成果に変える。知識システムが、一度きりのイノベーションを、継続的に積み上がる競争優位に変える。

この三つが、イノベーションのバリューチェーンを構成します。どれが欠けても成り立ちません。

人材だけいて組織がなければ、創造力は個人の中にとどまり、製品にもプロセスにも収益にもなりません。組織だけあって独自の判断がなければ、企業はルールをますます効率的に実行するだけで、そのルール自体がまだ妥当なのかを問えません。AIツールだけあって知識の蓄積と現実のフィードバックがなければ、長期的な競争優位を持ちにくくなります。使っている知能が、他社が使っている知能と同じだからです。

八、本当のリスクは、最も価値ある人材を「不合格」と判定すること

AIが強くなるほど、実行は安くなり、判断は高くなります。

これまで企業は標準化によって、より多くの人が安定して実行できるようにしてきました。標準化された仕事がAIにどんどん置き換えられると、本当に希少になるのは実行能力だけではなく、問題を見つける力、違いを生み出す力、価値を見極める力です。

ならば、これまで欠点とされてきた独特な能力は、新しい強みに変わりつつあるのではないでしょうか。これまで扱いにくいとされてきた人たちこそ、最も複製しにくい創造力を持っているのではないでしょうか。そして、全員が基準に従うことを求める組織は、自分の未来を自らの手で排除しつつあるのではないでしょうか。

カープの警告は、一言に集約できます。未来の企業にとって最大の危険は、天才が足りないことではなく、一見合理的な管理制度によって、最も価値ある人材を「不合格」にしてしまうことかもしれない、と。

実行する人が足りない時代が終わるとき、最も高価な能力は基準に従うことではなく、新しい角度を生み出す力になります。

VIBECODING

AIと開発現場の知見を、読みやすい記事として届けます。

© 2026 VibeCoding Japan, Inc. All Rights Reserved.