スターバックスはなぜ高く売れるのか?「サードプレイス」から学ぶビジネスモデル
スターバックスと聞いて、まず何を思い浮かべますか? 苦みの強い深煎りのコーヒー、フルーツやクリームをのせたフラペチーノ、それとも読書や仕事ができる座席エリアでしょうか。どれであっても、行き着く問いは同じです。同じ一杯のコーヒーなのに、なぜスターバックスは同業他社よりも高く売れるのでしょうか。
2025年4月のデータを見ると、スターバックスのドリップコーヒーは一杯380〜510円、ドトールのブレンドコーヒーは280〜380円、タリーズのコーヒーは360〜480円です。スターバックスは明らかに高いのに、それでも日本最大のコーヒーチェーンであり続けています。なぜ高く売れるのかを考えるうえで、コーヒー豆や味だけを見ていては足りません。実際に効いているのは、その背後にあるビジネスモデルなのです。
より高い一杯のコーヒーは、何に支えられているのか
スターバックスの日本上陸は決して早くありませんでした。1995年、米国スターバックスはファッション雑貨を手がけるサザビーリーグと合弁で日本法人を設立し、1996年に銀座に日本1号店を出店します。当時のスターバックスはシアトル系と呼ばれ、深煎りを売りにしていました。抽出に時間がかかり、味も苦めだったため、味については少なからず議論を呼びました。一方で、スターバックスのロゴが入った紙カップを手に持つことはとてもおしゃれだと見なされ、すぐに流行しました。
注目すべきは、当時の日本にはすでに喫茶店が数多くあり、ドトールや珈琲館といったチェーンも存在していた点です。それでもスターバックスが高い価格で立ち位置を築けた理由は、一般に二つあるとされています。一つは外資ブランドが持つ影響力、もう一つは「サードプレイス(third place)」という概念を持ち込んだことです。家でも職場でもない、第三のくつろげる場所という考え方です。
この理念は店舗デザインだけでなく、人にも表れています。スターバックスは店員の採用や育成の際に、親しみやすいサービスを提供でき、「サードプレイス」の雰囲気に合う人材を意識的に選びます。他のチェーンと比べてスターバックスの店内がくつろぎやすいのは、内装だけでなく、こうしたスタッフの力によるところも大きいのです。
三つ目の支えは商品戦略です。スターバックスはコーヒーを高い価格で売るだけでなく、コーヒーの外側にも事業を広げました。2001年から販売を始めたフラペチーノは、フルーツやクリームなどをトッピングに使い、スターバックスを最も代表する定番商品です。価格は504円から1200円で、コーヒーよりも高くなっています。製造工程はより複雑で、フルーツを砕き、クリームなどのトッピングも加える必要がありますが、お客様は注文してからすぐに受け取れます。同時に、スターバックスは食事メニューをクッキー、ドーナツ、サンドイッチといった軽食に絞っているため、店舗に大きな厨房は不要です。厨房が小さければ、初期投資と家賃を抑えられます。こうして、高い価格で商品を売りながら効率的に運営できるスターバックスは、駅前や商業施設といった一等地に出店できるのです。
結果を振り返ってみましょう。日本法人は1996年に出店し、2001年に上場、2014年に米国スターバックスが全株式を取得して上場廃止となりました。2024年12月末時点の店舗数は1991店舗、2024年度(9月期)の売上高は3915億円で、日本最大のコーヒーチェーンです。これらの数字の背後には、設計された一連の仕組み、つまりビジネスモデルがあります。
ビジネスモデルは「どう稼ぐか」だけではない
「ビジネスモデル」という言葉を日本語にすれば、おおよそ「稼ぐ仕組み」となります。しかし、理解がこの層で止まってしまうと、重要な部分を見落としてしまいます。
経営戦略論を研究する早稲田大学の教授によれば、ビジネスモデルには学術的に狭義と広義の二つの定義があります。狭義の定義は収益源、つまり「どう稼ぐか」に重点を置きます。この説明は一見もっともらしく思えますが、いくつかの視点が欠けています。売っている価値はいったい何なのか。顧客はなぜそれにお金を払うのか。そして、それらはどうやって顧客の手に届くのか。製品やサービスそのものに魅力がなかったり、顧客にとって不要なものであれば、売上はなかなか伸びません。
広義の定義は「誰に、どのような価値を、どのように届けるか」まで含みます。目先の稼ぎ方だけでなく、顧客は誰か、彼らはどのような価格を望んでいるのか、自社の価値をどう届けるのかまで見る必要があります。ここまで範囲を広げてはじめて、本当のビジネスモデルが見えてきます。
冒頭のスターバックスにこの二つの定義を当てはめると、よく分かります。狭義で見れば、スターバックスは「コーヒーを売る喫茶店」です。広義で見れば、家庭と職場の外に、顧客がくつろげるサードプレイスを提供し、コーヒーからフラペチーノまで多様な商品を親しみやすい店員が届け、同時に小型の厨房で効率的に運営しています。スターバックスと競合他社との違いは、商品だけでなく、サードプレイス、店員のサービス、商品設計、店舗運営の方法など、多くの面にあります。
したがってビジネスモデルは、どのように価値を創造し、その価値を顧客に届け、そこから利益を得るのかを論理的に記述したものと定義できます。つまり「どう稼ぐか」だけでなく、「どのように社会的価値を創造するか」も視野に入れることが非常に重要なのです。
ビジネスモデルを組み立てる三つの道筋
では、ビジネスモデルはどう組み立てればよいのでしょうか。よくあるのは三つの道筋で、それぞれに長所と限界があります。
一つ目は戦略分析の道筋です。 まずSWOT分析で企業の外部環境と内部環境を整理し、要素を四つに分類します。強み(S)、弱み(W)、機会(O)、脅威(T)です。次にクロスSWOTを使い、自社の強みをどう活かし、市場機会をどう最大化するかを考えます。続いて顧客は誰か、提供する価値は何か、活動内容は何かを明確にし、事業構想を事業計画書にまとめます。そのうえで、どのような稼ぎ方があるのか、どれだけの売上と利益が必要なのかを議論します。この道は堅実な提案をたどり、データと論理を重視します。ただし限界も明らかで、既存モデルの延長線になりやすく、イノベーションを起こしにくいのです。
二つ目は顧客インサイトの道筋です。 インタビューや現場観察を通じて、顧客が何に困っているのか、その困りごとをどう表現するのかを理解し、顧客への共感を生み出すことを重視します。そして顧客の痛みや負担(pain)、顧客が本当に必要としているもの(gain)をビジネスモデルキャンバスで可視化し、それに基づいて商品やサービスを開発します。これはおそらくマーケティング業界で言う「インサイトマーケティング」に近いものです。長所は、主観的な洞察を活かして、未知の業界でも新しい価値提案ができることです。弱点は、客観的な証拠やデータの裏づけが乏しいことです。
三つ目はモデル適応の道筋です。 競合企業、海外企業、他業界のビジネスモデルの構造を「モデル」として読み解き、取引関係の図解に整理したうえで、自社に合わせて模倣し、調整します。セブン-イレブン・ジャパンはその例です。同社は米サウスランド・アイス社が生み出したコンビニエンスストアの概念を合弁会社の形で日本に導入し、日本で独自の発展を遂げました。居酒屋大手のモンテローザやワタミも同様で、彼らは既存の居酒屋チェーンに加盟した後、独立して居酒屋業界全体の発展を後押ししました。
モデル適応の手順はおおよそ次のとおりです。まず、自社の課題を解決する参考になる手本を見つけ、そのビジネスモデルの構造を読み解き、自社の業界に置き換えて構想し直します。そして実際に適用しながら施策を進め、手応えを探りつつ検証と改善を繰り返します。手本となる事例の構造を読み解く際には、いくつかのモデルに分類すると効果的です。こうした先行事例を参考にすれば、海外や異業種のモデルを比較的容易に取り入れられます。ただし課題もあります。どのモデルにも当てはまらない事例は必ずありますし、「何とかモデルに当てはめよう」という先入観を持っていると、独自の読み解きはできません。また、自分で手を動かしてモデル化しなければ、理解も深まりません。
まず単純化し、それからモデル化する
だからこそ、複雑なビジネスモデルに直面したときは、まずそれを単純化し、それからモデル化するのがよい方法です。次回は、ビジネスモデルを9つのタイプに分けて分析・説明していきます。どうぞご期待ください。

