“価値の源泉” × “もうけの獲得方法”で考える
ビジネスモデルという言葉を聞くと、少し難しく感じるかもしれません。
「何を売るのか」 「誰に売るのか」 「どうやって儲けるのか」 「サブスクリプションなのか、広告なのか、プラットフォームなのか」
こうした要素が一度に出てくるため、話が複雑になりやすいからです。
そこで役に立つのが、今回紹介する「取引の図解」です。
この考え方では、ビジネスモデルをまず2つの軸に分けて考えます。
横軸は「価値をどう生み出すか」。 縦軸は「その価値から、どうやって収益を得るか」。
そして、この3×3の組み合わせから、9つの基本的なビジネスモデルを整理します。
まず、この図は何を見ているのか?
この図を見るときに最も大切なのは、いきなり「9種類を覚えよう」としないことです。
先に見るべきなのは、横軸と縦軸です。
考え方はとてもシンプルです。
横軸:何が価値を生み出しているのか? 縦軸:その価値を、どうやってお金に変えているのか?
つまり、ビジネスモデルを、
価値の作り方 × 収益の取り方
として分解して見るわけです。
この2つを分けて考えると、複雑に見えるビジネスでも構造がかなり見えやすくなります。
横軸の見方
「価値の源泉」はどこにあるのか?
横軸には、価値を生み出す3つの方法があります。
1. 単体の力
最もシンプルなのが、商品やサービスそのものに価値があるパターンです。
たとえば、
- 自動車
- 家電
- 建築サービス
- 運送サービス
- ソフトウェア製品
などです。
顧客が買う理由は、基本的にその商品やサービス自体にあります。
つまり、
「この商品が欲しい」 「このサービスを受けたい」
という価値です。
製品力、品質、機能、デザイン、ブランド力などが競争力になります。
2. 引き合わせの力
2つ目は、誰かと誰かをつなぐことで価値を生むモデルです。
ここでは、商品そのものよりも、
「必要としている人」と 「提供できる人」
を結びつけることに価値があります。
たとえば、
- 小売
- 人材紹介
- 不動産仲介
- ECモール
- マッチングサービス
などです。
企業が価値を生む理由は、自分自身がすべての商品を作るからではありません。
情報を集めたり、売り手と買い手を結びつけたりすることで、取引そのものを成立させるからです。
3. 組み合わせの力
3つ目は、複数の商品・サービスを組み合わせることで価値を高める方法です。
たとえば、ある商品単体では利益が小さくても、別の商品と組み合わせれば全体で利益が出ることがあります。
また、本体と消耗品、本体とソフトウェア、本体と保守契約のように、補完関係をつくるケースもあります。
代表例としては、
- ドラッグストアの商品構成
- プリンターとインク
- 工作機械と保守サービス
- ゲーム機とゲームソフト
などです。
ポイントは、
「1つの商品だけで考えない」
ことです。
ビジネス全体の組み合わせによって価値を作っています。
縦軸の見方
「もうけの獲得方法」はどうなっているか?
次に縦軸です。
こちらは、どのように収益を回収するかという視点です。
大きく3つに分かれます。
1. 価値連鎖
最も一般的な形です。
商品やサービスを作り、流通させ、販売し、顧客から代金を受け取ります。
基本的には、
商品・サービス → 顧客 顧客 → 代金
という取引です。
製造、仕入れ、物流、販売などの一連の活動の中で利益を生み出します。
たとえば、
- メーカー
- 建設会社
- スーパー
- コンビニ
- 運送会社
などです。
一言でいうと、
「売って、その取引から利益を得る」
というモデルです。
2. リカーリング
リカーリングとは、一度売って終わりではなく、継続的に収益を得るモデルです。
たとえば、
- 月額課金
- 定期購読
- SaaS
- 保守契約
- 消耗品販売
- 継続利用料
などがあります。
このモデルの強みは、毎回ゼロから新しい顧客を探さなくても、既存顧客から継続的に売上を得られることです。
つまり、
「一回の売上」ではなく 「顧客との長期関係」
が重要になります。
3. 三者間市場
3つ目は、企業自身が直接すべてを売るのではなく、第三者として市場や場を作るモデルです。
ここでは通常、3者が存在します。
たとえば広告モデルなら、
- メディア企業
- 利用者
- 広告主
です。
マッチングモデルなら、
- プラットフォーム
- 供給側
- 需要側
です。
企業は、複数の参加者をつなぐことで価値を生み、その取引やアクセスから収益を得ます。
このモデルは、インターネットとの相性が非常に良いのが特徴です。
では、9つのビジネスモデルはどう見るのか?
ここまで理解すると、9つのモデルはかなり簡単に見えます。
9つは、まったく別々のモデルではありません。
3つの価値の作り方 × 3つの収益化方法
の組み合わせです。
つまり、
| 単体の力 | 引き合わせの力 | 組み合わせの力 | |
|---|---|---|---|
| 価値連鎖 | 1 製造販売 | 2 流通小売 | 3 合算 |
| リカーリング | 4 継続 | 5 フリーミアム | 6 設置ベース |
| 三者間市場 | 7 広告 | 8 マッチング | 9 補完財プラットフォーム |
という関係になっています。
ここが、この図の一番重要なポイントです。
1. 製造販売モデル
単体の力 × 価値連鎖
最も基本的なモデルです。
企業が商品やサービスを作り、それを顧客に直接販売します。
たとえば、
- 自動車メーカー
- 電子部品メーカー
- 建設会社
- 運送会社
などです。
価値は商品やサービスそのものにあり、収益は販売取引から得ます。
非常に分かりやすいビジネスモデルです。
2. 流通小売モデル
引き合わせの力 × 価値連鎖
このモデルでは、企業自身が必ずしも商品を作る必要はありません。
商品を仕入れ、顧客が買いやすい場所や形で提供することに価値があります。
たとえば、
- スーパー
- コンビニ
- 小売店
などです。
メーカーと消費者をつなぐことで価値を生み、仕入れ価格と販売価格の差などから利益を得ます。
3. 合算モデル
組み合わせの力 × 価値連鎖
合算モデルでは、一つの商品だけの利益を見るのではなく、複数の商品をまとめた全体収益を見ます。
たとえばドラッグストアでは、一部の商品を安く売って顧客を呼び込み、別の商品で利益を確保することがあります。
ある商品では儲からなくても、
「店舗全体」 「顧客一人あたりの買い物全体」
で利益が出れば成立します。
セット販売やクロスセルも近い考え方です。
4. 継続モデル
単体の力 × リカーリング
商品・サービスそのものを、継続的に利用してもらうモデルです。
代表例は、
- 新聞の定期購読
- 動画配信
- SaaS
- 月額サービス
- 会員サービス
です。
価値の中心はサービスそのものですが、収益は一度ではなく継続して発生します。
5. フリーミアムモデル
引き合わせの力 × リカーリング
フリーミアムは、
Free(無料)+ Premium(有料)
を組み合わせたモデルです。
多くのユーザーを無料で集め、その中の一部に有料プランへ移行してもらいます。
たとえば、
- スマートフォンアプリ
- クラウドサービス
- Webサービス
- オンラインゲーム
などです。
無料ユーザーが増えることでサービスの価値が高まり、そこから一定割合が有料化することで継続収益を生みます。
つまり、単なる「無料サービス」ではなく、
無料で顧客を集め、有料利用へつなぐ設計
が重要です。
6. 設置ベースモデル
組み合わせの力 × リカーリング
このモデルは、製造業やITで非常に重要です。
最初に本体やシステムを導入し、その後に、
- 保守
- 消耗品
- 部品
- ライセンス
- 運用
- アップデート
などで継続収益を得ます。
たとえば、
- 工作機械
- 半導体製造装置
- プリンター
- 基幹システム
- 業務システム
などです。
本体単体ではなく、導入後のサービスまで含めた組み合わせで利益を作ります。
7. 広告モデル
単体の力 × 三者間市場
広告モデルには、
- メディア企業
- 利用者
- 広告主
の3者がいます。
利用者には無料、または低価格でコンテンツを提供し、その利用者の注目やアクセスを広告主に提供します。
代表例は、
- テレビ
- 新聞
- Webメディア
- 無料情報サイト
- SNS
などです。
利用者から直接大きく課金するのではなく、利用者を集めること自体が広告価値になるわけです。
8. マッチングモデル
引き合わせの力 × 三者間市場
マッチングモデルでは、企業は売り手と買い手を直接つなぎます。
たとえば、
- 人材紹介
- 不動産仲介
- フリマアプリ
- ECモール
- 配車サービス
- 旅行予約サイト
などです。
供給側と需要側を集め、その取引を成立させることで、
- 仲介手数料
- 成約手数料
- 掲載料
などを得ます。
このモデルでは、参加者が多くなるほど利便性が上がることがあります。
9. 補完財プラットフォームモデル
組み合わせの力 × 三者間市場
9番は、9つの中でも少し高度なモデルです。
代表例はゲーム業界です。
たとえば、ゲーム機メーカーが本体だけを売るのではなく、その上で多くのゲーム会社がソフトを提供できる環境を作ります。
すると、
ゲームソフトが増える ↓ ゲーム機の魅力が高まる ↓ ユーザーが増える ↓ ソフト会社も参入したくなる
という循環が生まれます。
これはゲームに限りません。
- スマートフォンとアプリ
- OSとソフトウェア
- クラウドと各種SaaS
- EC基盤と出店者
などにも見られます。
本体と補完財を組み合わせ、その周囲にエコシステムを作るモデルです。
横軸と縦軸の関係は、どう理解すればいいのか?
ここが一番重要です。
横軸と縦軸は、どちらか一方を選ぶものではありません。
一つのビジネスを、2つの角度から見ています。
たとえば、SaaSを考えてみます。
まず横軸で考えます。
「このサービスは何によって価値を生んでいるのか?」
サービスそのものが価値なら「単体の力」です。
次に縦軸で考えます。
「どうやってお金を回収しているのか?」
月額課金なら「リカーリング」です。
したがって、
単体の力 × リカーリング = 継続モデル
と整理できます。
このように考えると、自社のビジネスを9マスのどこに置けばいいのかが分かります。
ただし、実際の企業は1つのモデルだけではない
ここも重要です。
9つのモデルは、企業を完全に分類するための箱ではありません。
実際の企業は、複数のビジネスモデルを組み合わせています。
たとえばAmazonを考えると、
- EC小売 → 流通小売モデル
- Marketplace → マッチングモデル
- Prime → 継続モデル
- 広告 → 広告モデル
- AWS → 継続モデル
など、複数の構造を持っています。
Appleも同様です。
- iPhone販売 → 製造販売モデル
- AppleCare → 設置ベースモデル
- iCloud → 継続モデル
- App Store → 補完財プラットフォームモデル
というように見ることができます。
つまり、この9分類は、
「この会社は何モデルか?」
と一つに決めるためのものではなく、
「この会社は、どのモデルをどう組み合わせているのか?」
を見るためのフレームワークなのです。
9つのモデルを見るときの3ステップ
実際に企業や新規事業を分析するときは、次の順番で見ると分かりやすくなります。
Step 1:価値はどこから生まれているか?
商品そのものなのか。 誰かをつなぐことなのか。 複数の商品・サービスの組み合わせなのか。
Step 2:収益はどのように発生しているか?
一回の販売なのか。 継続課金なのか。 複数の参加者から収益を得る市場型なのか。
Step 3:その交点を見る
この2つを掛け合わせることで、9つの基本モデルのどこに近いかが見えてきます。
このフレームワークは、新規事業にも使える
この図は、既存企業を分析するだけでなく、新規ビジネスを考えるときにも使えます。
たとえば、現在の事業が「製造販売モデル」だとします。
そこで、
「継続収益を追加できないか?」
と考えれば、
保守契約、消耗品、サブスクリプションなどを追加し、設置ベースモデルや継続モデルへ広げられるかもしれません。
あるいは、
「自分たちだけで商品を提供するのではなく、他社も参加できないか?」
と考えれば、
マッチングモデルやプラットフォームモデルへ発展できる可能性があります。
つまり9つのモデルは、単なる分類表ではありません。
事業を次の段階へ進化させるための発想ツールとしても使えます。
まとめ
9つのビジネスモデルを理解するときは、9種類を丸暗記する必要はありません。
まず、この2つだけ覚えておけば十分です。
横軸:価値をどう生み出しているか 縦軸:その価値からどう収益を得ているか
そして、
3つの価値の源泉 × 3つのもうけの獲得方法 = 9つの基本モデル
と考えます。
この見方を身につけると、企業を見るときにも、
「この会社は何を売っているか」
だけではなく、
「本当の価値はどこで生まれているのか」
「どの部分で収益を回収しているのか」
「別のモデルを組み合わせる余地はないか」
というところまで考えられるようになります。
「取引の図解」の本当の価値は、ビジネスモデルを分類することではありません。
複雑な商売の仕組みを、一度シンプルな構造に戻して考えられること。
そこにあります。

