製造販売モデルの二面性:ある自動車部品メーカーの10%台の営業利益率から、その強みと限界を考える
製造販売モデルは、言葉にすればとてもシンプルです。企業が製品やサービスを自らつくり、それを販売し、顧客から対価を受け取る。説明するまでもないほど単純です。しかし、単純であるがゆえに、このモデルの強みと弱さは同じところから生まれます。
ここでは三社の日本企業を事例に見ていきます。トヨタ自動車、ファーストリテイリング、キーエンスです。三社は業界も企業規模も収益性も異なりますが、いずれもグローバルに展開し、日本を代表する企業です。問いはこうです。なぜこの三社は、成長率も利益率もこれほど高くできるのか。その答えは「製造」という二文字ではなく、モデルの内部にある二本の軸にあります。
二本の軸:単体の力とバリューチェーン
製造販売モデルを理解するには、二つの方向を見る必要があります。
一つは「単体の力」です。魅力的な商品やサービスを、高品質・低価格で、しかも他社にはまねできない水準で提供できるか。これが価値の側です。
もう一つは収入の方法です。バリューチェーンの中で原材料や部品を調達し、加工し、納品する。コストから価格へとつながる一本の鎖をつくります。企業が稼げるかどうかは、この鎖をどう設計し、各段階をどう改善するかにかかっています。
このモデルを採る企業は、製造業にとどまらず、農業や建設業、運輸業にまで広がります。挙げられていた例には、小村不動産ホールディング、鹿島、清水建設などがあります。比較的イメージしやすいのは、自動車部品や電子部品といった業界に属する数多くの企業でしょう。逆に言えば、商品やサービスの背後に堅固な経営モデルがなければ、企業は競争力を長く保てません。
バリューチェーンはどう利益になるか:各段階での不断の改善
自動車部品メーカーを例に考えます。やることは、さまざまな原材料を調達し、加工し、組み立てて販売する。これで一つのバリューチェーンができます。利益を増やすには、各工程を不断に改善する必要があります。どう安く調達するか、欠品を出さず不良品を流さないようにするにはどうするか、どう効率よく生産を組み立てるか、そしてどう大量に売るか。こうした改善が各段階で積み重なって、はじめて利益が現れます。
競争力は、他社がまねしにくい二つのやり方から生まれます。一つは、他社にはなかなかできない高精度な金属加工を得意とすること。もう一つは、海外の工場を活用し、より安い価格と短い納期で製品を届けることです。つまり、他社が提供できない商品を出しながら、バリューチェーン上でコストを下げられるかどうか。そこがこのモデルの成否を分けます。
不良率を下げ、利益率を引き上げた事例
2010年前後、筆者はある自動車部品メーカーを訪れました。この会社は超精密部品の加工を得意としていました。ビジネスモデルは非常にシンプルです。顧客が指定した価格で、指定された数量を納め、対価を得る。それだけです。
問題は、まさに「超精密」という点にありました。超精密部品は量産の際に必ず多くの不良品が出ます。不良品が増えれば生産性は上がらず、コストも下がりません。業績は長く停滞しました。
この会社は1990年代に東南アジアへ主力生産ラインを構え、不良品の改善に力を注ぎます。この大胆なコスト削減の取り組みが成功し、業績は急上昇しました。2008年のリーマン・ショック後の不況や2011年の東日本大震災で、多くの同業他社や他社が苦しむ中、この自動車部品メーカーは営業利益率10%台前半を達成しました。
品質と利益率は別物である
ここからが、このモデルのもう一つの顔です。
ビジネスモデルの観点から見れば、品質と利益率は別物です。製造販売モデルは、顧客がそのつど買ってくれることに依存しています。そして製造を担う以上、経営者は工場を建て、人を雇い、材料を用意しなければならず、多額の投資が必要になります。成長するときには、量を売り、売上を伸ばし、コストを下げ、利益を出して、さらに投資する。高い利益率を維持するには、値上げかコスト削減の二つしかありません。しかもどちらにも限界があります。顧客に値上げを受け入れてもらうのは難しく、コスト削減も無限には進められません。
現実には、すべての自動車部品メーカーがこうした利益率を維持できるわけではありません。高い技術力と競争力を持っていても、顧客である自動車メーカーから値下げを求められれば、サプライヤーは断れないことが多い。営業利益は次第に減り、業績は落ち込み、しかも長く回復しないまま、数年後にその会社は欧州の電子部品メーカーに買収されました。
これは製造販売モデルの限界だと言えます。顧客が十分に強く、自分に価格決定権がなければ、技術力や競争力は自動的に利益にはなりません。
変えるなら、バリューチェーンかモデルそのもの
日本の製造業の品質は世界でも指折りです。日本企業が技術と品質を追求する熱意も、確かに高いものがあります。しかし、上の事例が示すように、その熱意そのものが利益を保証するわけではありません。
この状況を変え、利益率を引き上げる道は二つしかありません。自らのバリューチェーンを徹底的に磨き上げるか、ビジネスモデルを変えるかです。製造販売モデルの要点は、あくまで魅力的な製品とサービス、そしてそれを支えるバリューチェーンにあります。
次回はトヨタ自動車を例に続けていきます。

